私にとって最も身近なアートのひとつが、レコードです。一枚一枚アナログレコードで音楽を聴くというのは、私にとって、とても贅沢な時間です。ヘッドフォンから気軽に聴く音楽も好きですが、アナログレコードの重みのある手触り感、針を落として広がる音の空間は、格別です。
レコードを選ぶときは、デジタル音源のように検索ができないので、ジャケットを一枚一枚見ながら、自分の手で探さなければなりません。だからこそ、お目当ての一枚が見つかったときは、宝物を探し当てたようなうれしい気持ちになります。手間をかけることは、ときに「手触りのある喜び」につながります。
レコードとは、音楽とジャケットをあわせて一つのアート作品だと私は思っています。好きなデザインのジャケットをアレンジして描いたイラストをインスタグラムに投稿しているのですが、ここでいくつかお気に入りを紹介したいと思います。
1つ目は、1980年代以降のアメリカインディーズシーンを代表する、ニューヨーク出身のノイズパンクバンド「Sonic Youth(ソニック・ユース)」です。私が初めてジャケットをアレンジして描いたもので、個人的に思い入れが深いです。
背景の模様は、レコードがくるくる回っている様子とタバコの煙をイメージしました。もとのジャケットは、レイモンド・ペティボーンというアメリカのアーティストによるものです。じつはこの絵は、実際に起きたある事件をもとに描かれています。興味のある方はぜひ調べてみてください。
お気に入りの2つ目は、1960〜70年代にかけて、アメリカサンフランシスコを拠点にして活動していた、人種・性別混合編成のファンクバンド「SLY and the Family STONE(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)」です。
毎回絵を描く前にそのアルバムの曲を聴き込むのですが、これがきっかけで私はファンクミュージックが大好きになりました。跳ね上がるようなポップな柄と、スライストーンの美脚がポイントです。
私は歌を歌ったり音楽を制作したりしますが、どのミュージシャンのどの音楽がなんていうジャンルなのか……というのは、じつはあまり詳しくありません。私にとってのファンクは、この絵のように跳ね上がったりしたくなる楽しい音楽です。
お気に入りの3つ目は、1960~2000年代まで、長きに渡って活躍したイングランド出身のシンガーソングライター「David Bowie(デヴィッド・ボウイ)」。彼の活躍は音楽に留まらず、存在自体がアートといっても過言ではありません。
彼のオッドアイをイメージして、背景にキラキラとしたアイシャドウを使って色付けしました。流れている涙はマニキュアで描いています。
ところで、私の描く人物は必ず涙を流しています。それは母から教えてもらった「涙の美しさ」がきっかけです。何かが心の感情を揺さぶって、その人の涙になり、そして、その涙がその人自身を美しくします。私にとって涙の美しさとは、とても大切な心の支えであり、ずっと追求していきたいアートのテーマでもあります。