― 普段はどんなおやつ時間を過ごしていますか。

1日の中で必ずとる、大好きな時間です。おやつが好きで、インスタグラムにもついおやつを載せてしまいますから。おやつの時間は、かわいくておいしいものをいただく、特別な時間。忙しく過ぎゆく時間を、いったんリセットできるんです。毎日あるご褒美時間を、かみしめて過ごしています。

― 毎日おやつを食べますか。

その日のスケジュールによって時間はまちまちですが、必ずおやつ時間はとります。仕事の合間に午前中からとるときもあるし、夕方くらいにとるときも。1日に2回とることもあります。昔子どもの頃、家に植木屋さんがくると、「お十時」「お三時」といって休憩していました。子ども心に「なんだろう、お十時って」と、その響きがすごい好きで。母が「お三時の時間よ」とおやつを出してくれたのを覚えていて、「お十時もあったらいいのにな」と思った記憶があります。ご飯の時間とは違う時間に、みんなで休憩している情景をよく覚えていますね。そういうのもあってか、お客さんが来たらお茶を出すのも好きですし、そういう時間っていいな、と思います。

― おやつの時間はいつもご自宅で？

そうですね。気になるカフェやケーキ屋さんがあれば訪れて、そこで食べたりもします。おやつの時間は、ひとりでのんびりと過ごすことが多いです。撮影中など仕事の合間に、おしゃべりしながらのおやつ時間も好きです。場が和んで気持ちがほぐれてくると、仕事のアイデアが出てきたり。

― おやつ時間は、音楽を聴きながらや仕事しながら？

ぜんぜん。無音です。仕事しながらおやつを食べると、おやつだけが終わって仕事が一つも終わってない……と自己嫌悪になったりもするんですよ。だから、一回区切りをいれるためにも、そのままパソコンの横でおやつ、というように「ながら」では食べないように。自宅のリビングで仕事をするときは、大きめのトレイに用意してソファでいただいたり。そのままテーブルでいただくときも、いったん全部きれいにしてから味わいます。でないと休んだ気にもならず、おやつもあんまり味わえなかったりするので。

― 何かを思考をめぐらせていますか？

ないです。おやつの時間は、1回思考をストップしたいかな。

― どんなものを食べることが多いですか。

和菓子が大好きです。ケーキも好きですが、お店で食べることが多いですね。暑い日は、水羊羹なんかもいいですよね。見た目も涼しげですし。和菓子は、季節ごとの趣きを味わうことができるのもいいです。駒場東大前「岬屋」さんや、神保町「ささま」さんは、よく訪れますね。出かけるたびに「あれがおいしいところの近くだな」と思って、足を伸ばしてお菓子を買っておくことが多いので、家にはなにかしらあります。

― 飲み物はどんなものを？

紅茶が多いです。コーヒーも気分をリセットするにはすごくいいのですが、紅茶はより、自分の気持ちに寄り添ってくれてる感じがして。茶葉によって効能などもあるので、今こういう気分だなと感じたら、それに合ったお茶を飲んだり。お菓子に合わせてどの茶葉にしよう、と考えるのも楽しいです。

誰かと一緒に食べるなら、その人の気持ちがストンと落ちるというか、おやつ時間によって気分が1回落ち着くように、飲み物との相性も大事にしています。器にもこだわりたいです。カップはどうしようかな、とスタイリングするのも楽しみです。おやつ時間は準備する時間も楽しいですし、いろんなことで楽しみが作れますよね。

― ご自身でおやつを作ったりも？

簡単に作ることはありますが、でもやっぱり自分で作ってると気分が変わらなかったりもします。人が作ってくれたものって、なんであんなにおいしいんでしょうね。

― 思い出深い、おやつの時間はありますか？

思い出深い……なんだろう。やっぱり、子どもの頃の記憶のほうがすごくあって。家族ぐるみで仲良くしていたおじさんとおばさんの家に遊びに行ったときに、とても大きなプリンを作って待っていてくれたんですよ。それこそ、バケツで作るような。それを型から出すときにドキドキした思い出があります。なんでか、そのときの印象が強く心に残っています。そういう遊び心がある大人って、すてきだなって思って。

その記憶を思い出しては、そうやって人が喜んでくれることや普通じゃないことをやってみたいな、というのはあります。「食」を通じてこんなに人を楽しませることができるんだ、こんなにわくわくできるんだ、という。その後しばらくは母に、「大きなプリン作って作って」といっていましたね。

― お母さんの手作りおやつ。いいですね。

こんなエピソードもありました。母が作った、バッドに流し込まれた牛乳かんが冷蔵庫に入っていたんです。母が買い物へ行っている間に姉と2人で冷蔵庫を開けてそれを見つけて、つまんだですよね。それが、少し食感がかたくて。母が買い物から帰るなり「ちょっとかたかった」といったら、母に怒られたんです。「なんで怒るんだろう？」と思ったのですが、後になってその牛乳かんはまだ作っている途中だったというのを知って。おそらくそれに入れる果物なんかを買いに行ってくれていたんでしょうね、それを途中で食べちゃったんですから（笑）。牛乳かんを見るたびに、いまだに思い出します。

― すごく情景が浮かんできます。すてきな思い出。

おやつに関しては、子どもの頃のそういう記憶がたくさんあります。学生時代は、自分でケーキを焼いて食べてもらったり、お菓子を作ってスタイリングしたものを写真に撮ってファイルしておいたり、ということも楽しんでいました。

― 理想のおやつ時間は？

緑があるところでピクニックシートを敷いておやつ、なんてすてきですね。お道具も持っていって、その場で中国茶なんかをゆっくり淹れられたりしたら最高です。昔、新宿御苑で中国茶を淹れていただいたことがあって「こういう時間っていいな」と思いました。外でいただくことでがらりと気分が変わるし、豊かな気持ちになれます。大人のおままごとみたいで、いいですよね。外でおやつをいただくときもペットボトルではなく、器を使って丁寧に過ごしてみたいですね。

― 料理家として大切にしていることは？

食材にも季節があることを伝えたいです。夏はこういう食材を食べてほてった体をさますとか、冬は体を温める食材をいただくとか。ちゃんと、理にかなっているんです。最近ではスーパーにもありとあらゆる野菜が通年並んでいてあまり季節感を感じられませんが、ちゃんと体の声を聞きながら食べることの大切さを伝えていきたいですね。だから、レシピでも季節感を大切にしたいというのが前提にあります。

だからといって、特別な食材でしか作れないというのではなく、どこにでもある食材でおいしく作れる簡単なレシピを心がけています。シンプルでも、その素材の味を生かせばおいしくできるという、素材のおいしさそのものを感じられるようなレシピにしたいですね。お塩とお出汁、お塩とオリーブオイルといったように少ない調味料でおいしくできるので。そういうことが伝わるといいなというふうには思っています。

― 最近お気に入りのご自身のレシピは？

この季節だと、そろそろ秋の果物が出てきますよね。ぶとうや梨などの秋の果物をお料理に取り入れて、夏から秋に変わる季節を感じられると楽しいなと思います。

― 果物をお料理に使うのですね！

秋の果物は、結構取り入れやすいですよ。サラダに入れてもいいですし。ぶどうをフォカッチャに乗せて焼いたり、お肉と一緒にオープンで焼いてみたり。フライパンでお肉焼くときに、最後にちょっとぶどうを焼いてソース代わりにしても楽しいと思います。梨はすこし甘味がありますが、食感が先に立つので和え物にしたり。この時期だときくらげと梨を和えてもおいしいんですよ。うり系のものもよく合うのできゅうりと梨もいいですね。いい季節ですね、9月。

― へえ、おもしろい。おいしそうですね。果物をおやつで食べることも？

果物は、食後のデザートか朝に食べることが多いです。おやつ時間は「いわゆるおやつ」らしいおやつのほうが、気分が変わるかな。

― 最後に、渡辺さんにとってのおやつの時間とは？

なくてはならないもの。おやつは自分を甘やかしてくれる身近な存在で、こんな幸せにしてくれるんだ、という感じですね。おやつを食べない日はないです。逆に食べ過ぎちゃうときのほうが多いので気をつけないと。

おやつの時間は、「時間」を感じられるタイミングでもあります。1日はあっという間で、午後はとくに早く流れてしまうので。おやつ時間をゆっくり過ごすことで「ああ、もう夕方だなあ」と感じたり。食事とは違う休憩時間をとって時間の流れを感じることで、気持ちが満たされるんですよね。おやつ自体も食べたいですが、その時間を過ごすための時間というか。お酒が好きというよりは、お酒を飲んでいる「人と過ごす」時間が好きという感覚に似ているのかしれないです。おやつ時間は、自分を整える時間ですね。

渡辺有子

@yukowatanabe520

料理家／「FOOD FOR THOUGHT」ディレクター。2015年に料理教室「FOOD FOR THOUGHT」を、2017年に自身がキッチンやテーブルで使いたいものを扱う同名のショップをオープン。旬の食材を活かした素材の味を大切にした料理を得意とする。センスのある器選びにも定評がある。『渡辺有子のおいしさのもと 毎日の料理が変わる』（文化出版局）など著書多数。

★お知らせ★
PARCO JOURNALのWEBサイトがオープンしました！
いままでパルコの公式アプリ「POCKET PARCO」でしか読めなかった記事も、WEBサイトですべて読めるようになりました。
ぜひ「PARCO JOURNAL」をお気に入り登録して、いろいろな記事をお楽しみください。

https://journal.parco.jp/