はじめまして。ライターのSYO
と申します。
映画を中心に、アニメや漫画、小説、音楽についての記事を書いたり、インタビューをしたり、ときどき出演もしています。猫とカフェめぐりが好きです。
今回は、冬の夜に心温まる「観たい映画と読みたい本」について、それぞれ3作品ずつ紹介させていただきます。何か1つでも気になる作品が見つかれば、とても嬉しいです。
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2021/01/29 Fri.
【映画ライターSYOさんオススメ】寒い冬に観たい、読みたい。心温まる映画&本3選
はじめまして。ライターのSYO
と申します。
映画を中心に、アニメや漫画、小説、音楽についての記事を書いたり、インタビューをしたり、ときどき出演もしています。猫とカフェめぐりが好きです。
今回は、冬の夜に心温まる「観たい映画と読みたい本」について、それぞれ3作品ずつ紹介させていただきます。何か1つでも気になる作品が見つかれば、とても嬉しいです。
寒い冬に、心をほっこりさせてくれる映画を観る……。素敵ですよね。ぽかぽかして、じんわりきて、「あぁ、良い2時間だったな」と思える。そのあと外に出ても、カイロみたいにぬくもりが続くような、疲れがほろほろ崩れる映画体験。
ならば、ただ心にしみる映画ではなくて、どこか“冬”を感じさせる作品が良いな。そしてせっかくなので、いわゆる「鉄板」からは、ちょいとずらした作品にしよう。そんな観点で、この3本を選んでみました。
『パディントン』スペシャルBOX Blu-ray ¥7,370(税込)
発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ポニーキャニオン © 2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.
赤い帽子にダッフルコートがトレードマークの、紳士なクマさん。みんながよく知る人気キャラクター、パディントンの実写化作品です。
ジャングルからロンドンにやってきた言葉を話せるクマ・パディントンが、親切な家族と出会って居場所を見つける物語。とびきり優しくてあったかい、ハートフルな傑作です(映画館で観た際、1も2もどちらも素敵すぎて、号泣しました)。
キュートなパディントンの一挙手一投足を観ているだけでもほっこりするのですが、実はこの作品、映画評論的な目線で観ても大変優れた一本。この映画は「他者を受け入れる」がテーマになっており、人間側からは見た目が違うパディントンを差別せず「彼は私たちの家族」と歓待する“慈愛”が、パディントン側からは「親切な人に対しては、世間も親切にする」という“博愛”が、それぞれ描かれるのです。
『パディントン2』Blu-ray&DVD ¥7,150(税込)
発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ポニーキャニオン © 2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.
特に続編の『パディントン2』は、あまりのクオリティの高さに、アメリカ最大級の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で歴代最高評価を叩き出したという武勇伝があります。
新型コロナウイルスの影響で、不安な毎日を過ごしている方も多いかと思います。知らず知らずのうちに、心に負荷がかかっていることもあるでしょう。そんなときこそ、癒されてほしいなと思います。
『ラ・ラ・ランド』で日本でもブレイクした、人気俳優ライアン・ゴズリング。彼が出演した、優しさに包まれ、温められ、思わず涙してしまう感動作。それがこの『ラースと、その彼女』です。
どのような物語かというと、「とても親切だけど超が付くほどシャイな青年が、ラブドールに恋をした」というお話。設定だけ聞くと、かなり奇抜ですよね。ですがこの映画、「愛すること」の美しさをさまざまな角度から教えてくれる素晴らしい作品なのです。
本作が興味深いのは、主人公のラースと同じくらいの比重で「周りの人々が彼をどう受け入れるか」を描いていること。みんな最初は困惑するけれど、主人公が恋人というラブドールを、ひとりの人間として扱う。「普通じゃない」と否定せず、一員として迎え入れる。こんなに優しい世界が、あったなんて。ある種の理想郷が、そこにあります。
「不寛容の時代」と呼ばれるほど、他者を排斥する現代社会。ネット上では、攻撃的な言葉があふれています。ついつい目にして、落ち込んでしまうときもあるでしょう。でも『ラースと、その彼女』を観ると、人が本来持っている気遣いや隣人愛を再認識できます。
心が冷えてしまった日に、「大丈夫だよ。そばにいるよ」と寄り添ってくれるような、誰も傷つけない映画です。舞台も冬なので、余計に沁みるはず。ぜひ、試してみてください。
画像引用元:Amazon Prime Videoの作品ページより
冬の先には、春がある。そんなメッセージが、鼻をくすぐる良作。生田斗真さんがトランスジェンダーの主人公を繊細に演じ、桐谷健太さんが恋人に扮しました。
リンコさん(生田斗真)とマキオ(桐谷健太)のカップルのもとに、母親に育児放棄されてしまった女の子がやってくる。3人は共同生活を送る中で、かけがえのない絆を育んでいく――。『かもめ食堂』の荻上直子監督が、新聞記事に着想を得て作り上げたオリジナル作品。本当に“いい話”で、心が浄化される「デトックス映画」だと思います。
劇中のセリフもいちいち素晴らしく、中でもマキオが言う「リンコさんのような心の人に惚れちゃったら、あとの色々なことはどうでもいいんだよ」は、あらゆるラブストーリーの中でも突出していると思います。
「好き」という感情は、あらゆる障壁を越えていくものだということ。愛があれば、世界は色づいていくのだということ。誰かに大切に想ってもらえれば、生きてゆける。パステルカラーに彩られた作品世界に身を浸すうちに、きっと心が負のトンネルを抜けているはず。陽だまりのようなあたたかさで、ぎゅっと抱きしめてくれる作品です。
本を読んでいて好きな瞬間は、時間を忘れさせてくれることです。映像も音楽も、決まった時間の中で表現する芸術。ですが本においては、どれだけ時間をかけて読むかは、こちら側にゆだねられている。だからこそじっくり自分のペースで、一緒に歩いていける。
今回は、「冬」が印象的な作品を3冊選びました。物語を読み進めていくうちに、登場人物が過ごす“いま”と自分が過ごしている“いま”がシンクロしていくような、それでいて読了後には優しさで満たされているような、そんな作品ばかりです。
『蜘蛛の糸』や『羅生門』『河童』など、シニカルで突き刺さるイメージが強い文豪・芥川龍之介。しかしそれは、彼の作家としての一面に過ぎません。駅で見知らぬ美女に突然お辞儀してしまい、テンパる青年を描いた『お辞儀』、若い女性が母親になっていく過程を優しく見つめた『あばばばば』など、ほっこりする短編がたくさんあるのです。
今回は、その中でも傑作と名高い短編小説『蜜柑』をチョイスしました。
季節は、ある曇った冬の日暮れ。舞台は、汽車の中。主人公の男性の前に、薄汚れた少女が座る。彼女は間違えて二等車に乗ってしまったようで(今でいうグリーン車のようなものです)、神経質なところがある男性は露骨に不快感を覚える。ただ、彼女が抱えていた想いを“ある行為”によって知り、認識を改める――。
ちょっとエッセイ調の文体になっていて、数分で読み終えられる長さ。だけれど、イメージが脳裏にぱっと浮かぶほど、表現が微細で感受性豊かです。他者を侮蔑する偏屈な主人公が、短いページ数の中で変化していく鮮やかさ、そして劇的なシーン演出。読む側にカタルシスを感じさせる手腕。実に見事な一作です。
個人的に、芥川龍之介は「言葉にならない感情を言語化できる天才」だと思っています。文芸作品はちょっと縁遠いかもしれませんが、私たちがうまく説明できないもやもやした気持ちを、彼ほど的確に言葉にしてくれる人はいません。ちょっとしたカウンセリング感覚で読むのも、面白いですよ。
作者の今村夏子さんがのちに芥川賞を受賞されたため、ご存じの方も多いかと思います。2020年には、芦田愛菜さん主演で実写映画化もされました。
なぜ今回、この作品を選んだのか。それは、入り口と出口が恐ろしいほど違っていて、他の作品では得難い感動があるから。そして、冬のシーンがとても重要だから。シリアスなサスペンスやハードなミステリーになりそうな題材を、愛の物語として描いているからです。
新興宗教にハマっている両親と暮らす、中学三年生のちひろ。お姉ちゃんは父母を理解できず、家を出て行ってしまった。学校でも、両親のことはなかなか言えない。自分の親は普通じゃなくて、周りから奇異の目で見られていることはわかっている。ただそれでも、ふたりが好きだ――。
例えば映画にしろ小説にしろ、多くの作品は「両親の呪縛から離れる子ども」の姿を描いていました。つまり、親を「悪」とみなす論調です。ただ『星の子』においては、その判断も主人公にゆだね、さらには“家族愛”を丹念に描いている。この“温もり”は、ものすごく新しいと思います。
そして、この作品のクライマックスが、冬の寒空なのです。親への愛情と、自我で揺れ続けたちひろが、最後に見る光景は何なのか。読み終えた後も、余韻がずっと続くはずです。
余談ですが、映画『花束みたいな恋をした』(1月29日公開)でも、今村さんの作品がキーとして出てきますよ。ご興味ある方は、映画と合わせてチェックしてみてください。
最後の一冊は、漫画をオススメします。アニメ化・実写映画化もされた人気作『となりの怪物くん』で知られるろびこ先生が贈る、日常系ラブコメディ。読書が好きで理屈っぽい偏屈男子と、彼に恋する純朴な(そしてちょっと残念な)女子が、「男とは」「女とは」をテーマに、駅や校庭で延々話す物語です。
会話劇が主体になっている構成で、ふたりが話すのはいつも「価値観の違い」。「なんで女ってこうなんだ?」「どうして男ってこうなの?」といった意見のぶつかり合いや、“あるある”のオンパレードが面白く、ろびこ先生の可愛らしい画風も相まってクスクス笑いながら読み進められます。
ただ、ギャグが多いと言っても、根底にはしっかりとしたラブストーリーがあり、男子が少しずつ恋愛感情に気づいてあたふたする様子や、なんだかんだでお互いにシャイなため、口が立つ割になかなか関係が発展しないもどかしさやほほえましさなど、キュンキュンする要素もしっかりカバー。そしてこの作品、秋から冬へと移り変わっていく過程がリアルタイムで描かれており、冬に読むとちょうど劇中のクライマックスの季節とリンクして、じーんと来ること間違いなしです。
冬の寒い日に、鼻を赤くしながら「あの人といると楽しいな。好きだな」と思うあの瞬間……甘酸っぱくて、心が温まりますよね。ふたりの様子を見ていると「冬も悪くないな」と思える、そんな“和み度”抜群の漫画です。
全部で6作品を紹介させていただきましたが、気になる作品はありましたでしょうか? いまは、人類が経験したことのない未曽有の危機の渦中にあり、なかなかリラックスできないかと思います。ですがこんなときだからこそ、映画や本といった「気分を変えてくれるものたち」の重要度が増しているようにも、感じます。
以前より増えたおうち時間を、心のケアに使うもよし、感性磨きに使うもよし。心をあたためてくれる作品たちは、いつだって私たちの味方です。
SYO(映画ライター)
Instagram:@syocinema
Twitter:@SyoCinema
HP:https://syocinema.jimdofree.com/
1987年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。
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