温泉王国・大分県の北東部に丸く突き出した国東半島。奈良時代から平安時代にかけて神仏習合の「六郷満山」と呼ばれる仏教文化が花開き、今でも観光名所となっている寺院が数多く点在しています。

そんな地にひっそりと佇むのが「旅庵蕗薹」。小さな宿ですが、凛とした存在感を放っています。

宿に隣接するのが、観光名所でもある国宝・富貴寺。大堂は、宇治平等院鳳凰堂、平泉中尊寺金色堂と並ぶ日本三阿弥陀堂のひとつに数えられ、現存する九州最古の木造建築物とされます。周囲は静寂が支配し、しゃきっと背筋が伸びる感覚になります。

宿の館内は洗練された和の空間。派手さはありませんが、心落ち着く空気に満ちています。

温泉は内湯のみですが、本格的な源泉かけ流し。泉質は炭酸水素塩泉。わずかに緑色ににごった湯は、しっとりとやさしい肌触り。

夕食は、地元の野菜を存分に使った郷土料理。やさしい味つけに、野菜のおいしさがにじみ出てきます。特産の「ぶんご合鴨」の鍋も絶品です。

夕食の〆はそば。豊後高田産の手打ちそばを提供する「手打ちそば認定店」なので、味は折り紙付きです。

宿では仏教文化に触れられます。国宝である富貴寺大堂で座禅体験ができるほか、写経をして心を落ち着けることもできます。日常生活のストレスから逃れたい、自分を見つめ直すきっかけとしたい……など忙しない日常を送る人にとって特別な体験となるはずです。
■旅庵蕗薹
住所:大分県豊後高田市田染蕗236
アクセス:JR日豊線宇佐駅よりタクシーで約30分
TEL:0978 -26-2668
自作の露天風呂をつくろう! 川湯温泉・山水館 川湯みどりや(和歌山県)
日本には温泉が至る所から湧いているイメージがありますが、手作業で掘れる温泉はめったにありません。自分だけの「マイ湯船」をつくってみてはいかがでしょうか。

川湯温泉は熊野川の支流・大塔川沿いに旅館が建ち並ぶ温泉地。世界遺産である熊野本宮大社や熊野古道の観光拠点でもあります。

「山水館 川湯みどりや」は、川沿いのロケーションが自慢の宿。泉質は炭酸水素塩・塩化物泉で、しっとりとやわらかいのが特徴です。

宿の名物は露天風呂。大塔川のほとりにある湯船は、ちょっと恥ずかしいくらいに開放感があります。しかし、川のせせらぎを聞きながらの湯浴みは最高に贅沢な時間です。なお、女性は露天風呂専用の浴衣(湯着)、男性はタオル着用で利用します。

実は、川湯温泉は川原を掘るとすぐに温泉が湧き出すことで知られます。自ら露天風呂を手づくりできるため、夏は温泉を楽しみながら川遊びに興じる人でにぎわいます。
冬は川をせき止めてつくった巨大露天風呂「仙人風呂」が出現し、温泉地の風物詩として人気を集めています(例年2月末まで)。「千人」入れるくらい巨大な湯船は野趣にあふれます。川底から70℃を超える熱めの源泉が湧き出しているので、適温の場所を探すのも楽しみのひとつです。
■山水館 川湯みどりや
住所:和歌山県田辺市本宮町川湯13
アクセス:阪和自動車道南紀田辺ICから約90分
TEL:0735 -42-1011
ぜひ、今回紹介した温泉に出かけ、その新たな魅力に気づいてもらえたらうれしいです。わたしが波打ち際の露天風呂「崎の湯」で体験したような感動と発見が、待っているかもしれません。
Profile
高橋一喜
Instagram:
@solosolo_onsen
@takahashi_kazuki3016
温泉ライター。大学卒業後、出版社に入社。2008年、温泉好きが高じて会社を辞め、「日本一周3000湯の旅」に出発。386日かけて3016湯を踏破。現在はフリーランスとして書籍の編集・ライティングに携わるかたわら、温泉ライターとして活動し温泉の魅力を発信している。2021年東京から札幌に移住。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉―空白の時間を愉しむ』『こだわるから、とらわれない』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』などメディア出演多数。
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