書評家の三宅香帆です。私は普段本の解説や批評を書いているのですが、「好きなものについて語ろうとすると、語彙力がなくなってしまう」という声を、しばしば聞いてきました。そんな方に向けて書いたのが、好きを言語化する方法を解説した『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』でした。
2023/10/06 Fri.
推しの素晴らしさは、「やばい」じゃなくて自分の言葉で語りたい!
~1分で読めるエンタメコラムを配信~
季節のファッショントレンドから、アート、映画、演劇、旅行などの耳より情報に、旬のイケメンまで。あなたの好奇心を満たすコラムをお届け!
2023/10/06 Fri.
推しの素晴らしさは、「やばい」じゃなくて自分の言葉で語りたい!
書評家の三宅香帆です。私は普段本の解説や批評を書いているのですが、「好きなものについて語ろうとすると、語彙力がなくなってしまう」という声を、しばしば聞いてきました。そんな方に向けて書いたのが、好きを言語化する方法を解説した『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』でした。
まずは、私の「書評家」という仕事について。大学のときに書店でバイトしていたのですが、その仕事の一環で、書店のブログを更新していたんです。そのブログのなかで、本を紹介した記事がものすごくバズって、その記事を元ネタに一冊目の本が出たのが、書評家業のはじまりです。一冊目が書評の本だったので、いまだに書評家と名乗ってます。
高校生のときに『風光る』という漫画や『燃えよ剣』という小説を読んで、新選組にハマり、京都の大学に進学することを決めました……新選組が好きすぎて……。大学進学という一大イベントも、本によって左右される人生です。
著書のご紹介も。『名場面でわかる 刺さる小説の技術』は、小説の名場面について解説しつつ、「名場面の書き方」を解明するという本になっています。映画の名場面はフューチャーされることが多い気がするのですが、小説も名場面があってこそいい物語になるんだぞ、ということを伝えたくて書きました。趣味で小説を書いている方に読んでほしいです!
今後は批評の面白さを伝える活動をしていきたいです。物語の面白さや解釈を考えたり、読んだりすることって、本当に豊かで、楽しいことなんだよ、ともっとたくさんの方に知ってほしいです。
さて、本題です。ずばり、推しを語るときに一番大切なこと。それは「自分だけの感想をつくること」です。
自分だけの感想とは、「他人や周囲が言っていることではなく、自分オリジナルの感想を言葉にすること」です。たとえば創作にはオリジナリティが重要だ、とよく言いますよね。これは本当にその通りで、自分の作品と同じ作品がもうあるなら、重複して世にだす意味はほとんどないんです。だって既にあるわけですから。
推しを語ることも同じです。誰かがつくった言葉や誰かが広めた感情ではなく、自分だけが感じていることを伝えるのが、なによりも大切。それを伝えることこそが、あなたが推しを語る意味になる。この世にまだない感想を生みだす意味になる。
なんだ、自分の感想をそのまま言葉にしたらいいの? 簡単じゃん、と思われるかもしれません。でもこれって、意外と難しいんです。
なぜなら人間は、なにも考えずにいたら、世の中に既にある「ありきたりな言葉」を使ってしまう生き物だから。たとえば「泣ける」「考えさせられる」「やばい」といった、ありきたりな感想用語。実はこれらの「ありきたりな言葉」を禁止した先に、自分だけのオリジナリティある感想が生まれるのです。
自分の言葉をつくるためには、とにかく人の言葉に影響を受けすぎない工夫が必要。具体的には、SNSで人の感想を読む前にメモを取ったり、他人と自分の距離をちゃんと取っておくことが大切です。SNSで他人の言葉をたくさん読むことの多い時代ですが、他人に惑わされすぎず、自分の言葉をつくることが、自分の「好き」を大切にする技術そのものなのです。
私にとって今は宝塚を観に行くことが、いちばんの「推し活」です!
フットワーク軽く、いろんなものや人に興味を持つことが、「推し」に出会う一番いい方法かな、と思います。一方で、最近「推し」がいないことや、忙しくて「推し」に費やす時間がないことを気に病む方もいますが、私はそこについては、そんなに気にしなくていいのでは?と思っています。人間、忙しいときには趣味にかまけている時間もなくなるものですし。むしろ、もっと気楽に考えて、また暇になったら趣味人生に戻ってこよう~くらいに考えておくほうが、人生楽しく過ごせるのではないでしょうか。
好きなものやひとに出会うと、マイナスな感情もプラスの感情も過剰になります(笑)。が、なかなかそこまで好きになる対象に出会えることも希少ですから。推しができたときはぜひ「好き」を言語化して記録して、「こんなに何かを好きだったときがあったんだな」と未来の自分が思えるように、保存しておくのがいいと思います。
私は、あなたの推しについて語ることは、あなたの人生について語ることだと思っています。推しについての言葉をしっかり作ることができれば、きっと推しに出会えた人生を祝福できることでしょう。一緒に推しについての言葉を培いましょう!
三宅香帆
書評家、作家。1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院卒。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室(サンクチュアリ出版)』『名場面でわかる 刺さる小説の技術』(中央公論新社)『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』他多数。編著に『私たちの金曜日(KADOKAWA)』がある。
★お知らせ★
PARCO JOURNALのWEBサイトがオープンしました!
いままでパルコの公式アプリ「POCKET PARCO」でしか読めなかった記事も、WEBサイトですべて読めるようになりました。
ぜひ「PARCO JOURNAL」をお気に入り登録して、いろいろな記事をお楽しみください。
2024/11/20 Wed.
2024/03/29 Fri.
2024/02/23 Fri.
2024/02/16 Fri.