― 今回の安西水丸さん、長場雄さんのラグもとても手が込んでいますね。それぞれ、どんな制作過程でしたか?
貴島:水丸さんに関しては、線の細さがすごく難しくて。通常のラグは、糸5本を揃えて1列の線を描くんですけど、水丸さんの線はそれだと太すぎてしまう。なので糸を4本にしたんです。糸を4本にするとか5本にするなんてことは、通常は選べることじゃないんですけど、そこをなんとか職人さんに相談ながら作っていきました。
色の再現も難しくて、たとえばイラストなら絵の具に水を差せば薄めることができるけど、糸ではそれができないので透明性を持たせられません。だから影が影に見えなかったり、全体のバランスが変わってしまったりすることがあるんです。今回で言うと灰皿の影なんですけど、これは僕の判断で誰にも相談せずとってしまいました。
― 誰にも相談せず、ですか?
林:水丸さんのラグを制作するにあたって、最初に奥様の岸田ますみさんに「ラグを作らせて欲しいと思っています」という話をしに伺ったとき、とても喜んでくださったし、すごく理解を示してくださったんです。ラグになる過程で、どうしても原画から省略してしまう部分があるかもしれないとお伝えしたところ、「その方がいいんじゃない」って言ってくださって。
貴島:あの言葉には感動しました。作家本人ではなく権利を持っている方が判断する時、忠実に再現してほしいと望むのは当たり前だと思うんです。でも岸田さんは、それがプロダクトとして成立していればいいというお返事でした。原画と全く同じじゃなかったとしても、その方がプロダクトとして良ければ、きっと水丸さんもそれがいいって言うと思う、って。
― それはすごいです。ご家族の理解があったからこそ、ラグとして最高なかたちになっている。
貴島:そうですね。忠実性はなく、アイテムとして素敵だったらいいって言っていただけたのは、すごくやりやすかったし、逆にそこに応えなきゃいけないなと思いました。ご理解があったから、灰皿の影も僕の判断でとれたんです。
林:色も糸を染めるところからなので、原画の忠実な色ではないんです。ラグに合わせてちょっと変えている。長場さんの絵も、本当は白い紙に黒いペンで描いていると思うんですけど、ラグはちょっとだけ色みをつけて、真っ白じゃないようにしてるんです。
貴島:長場さんはイラストをコピー用紙に描いてるんですよ。コピー用紙って実は真っ白じゃないんですよね。そこは再現したいと思いました。
林:こういった過程を経て、最高なラグが出来上がりました。私は絵を決めるところまでで、その先は貴島さんにお任せする部分が多いのですが、どちらもラグとして最高のかたちになったのは、貴島さんのセンスと経験と技術力のおかげです。