こんにちは。和菓子デザイナーの藤原夕貴です。
夏本番を目前に控え、蒸し暑い日が続く今日このごろ。気持ちだけでも涼やかに!ということで、今回の記事は、夏に味わいたい涼を感じる和菓子について。ちなみにこちらの画像の和菓子は、勢いよく流れ落ちる水が簾(すだれ)のように見えることから滝を意味する「水簾」です。透明感のある錦玉羹は、見た目にもとても涼やかですよね。これまで体験したことのない和菓子の魅力を、さあ、どうぞ。
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2022/06/17 Fri.
つるん、甘さ広がる。涼を誘うアートな和菓子で夏を先取る
こんにちは。和菓子デザイナーの藤原夕貴です。
夏本番を目前に控え、蒸し暑い日が続く今日このごろ。気持ちだけでも涼やかに!ということで、今回の記事は、夏に味わいたい涼を感じる和菓子について。ちなみにこちらの画像の和菓子は、勢いよく流れ落ちる水が簾(すだれ)のように見えることから滝を意味する「水簾」です。透明感のある錦玉羹は、見た目にもとても涼やかですよね。これまで体験したことのない和菓子の魅力を、さあ、どうぞ。
デザイナーである私が、和菓子を作り始めた理由。それは、当時所属していた会社の社長の思いつきがきっかけでした。新卒で入った会社を辞め、美大に入り直して一からデザインを学び、なんとか憧れだったデザイナーという職業に就くことができた20代後半。それでも仕事の忙しさにかまけて、学生時代のような自分らしさを表現する機会を見失いかけていた頃、クライアントワーク以外に「自分の好きなこと」を追求して個性とスキルを高めていこうという会社公認のプロジェクトが始まりました。そこで悩んだあげく、私が選んだテーマが「和菓子」でした。
元々茶道を教えていた祖母の影響もあり、小さい頃から身近にあった和菓子。まさか自分が作る側になるとは夢にも思っていませんでしたが、デザイナーとして和菓子に向き合うようになり、ハッとさせられる表現がたくさんあることに気づきました。
一つのテーマを深堀し、コンセプトに基づき限られたスペースの中で抽象的にかたちに落とし込んでいく行為は、まさにデザイナーが普段行っている思考プロセスと同じ。デザイナーとして新鮮な目で和菓子をリデザインしたら、一体どんなものができるのだろうか。そんな想いから和菓子作りがスタートし、今に至ります。
もちろん作るだけでなく、食べることも大好き。定期的に気になる和菓子屋さんや新登場の和スイーツをチェックしています。そんな中から今回は、暑い夏にぴったりの和菓子をご紹介します。
6月に入ると様々な和菓子屋さんで見かける「水無月」という和菓子をご存じでしょうか。白いういろう生地の上に小豆をのせ、三角形に切り分けたもので、もちもちした食感と透明感のある涼やかな見た目が特徴です。
その昔、宮中の人々は氷を口にして暑気払いをしていましたが、貴重な氷は一般大衆の手には入りにくかったため、代わりに氷片を模した水無月を食べるようになったといわれています。そんな、人々の知恵と工夫から生まれた水無月。時代が変われど、暑い季節を少しでも涼やかに過ごしたい気持ちはみんな同じです。いにしえから伝わる和菓子で、この夏を乗り切ってみてはいかがでしょうか。
暑い夏にぴったりのひんやり涼菓としておすすめしたいのが、京都の老舗和菓子屋「老松」の銘菓で、夏みかんを一個丸々使用した「夏柑糖(なつかんとう)」。夏みかんをくりぬいた部分に果汁と寒天を合わせたものを注いで冷やし固めたもので、果実をそのままいただいているような贅沢な気分が味わえます。
切ったときにあらわれる、みずみずしくプルンとした見た目はなんとも涼やかで、夏の暑さを忘れさせてくれます。さっぱりした味とつるんとした喉越しに、気づいたら一個丸ごと食べきっていることもしばしば。その年の夏みかんがなくなり次第販売終了となりますが、夏柑糖に続いてグレープフルーツを使った「晩柑糖(ばんかんとう)」もあるので、ぜひ旬の味をお試しあれ。
富山の銘菓「薄氷(うすらい)」は呼んで字の如く、今にも割れてしまいそうな春先の薄い氷をイメージした和三盆の干菓子です。この薄氷、実は季節ごとに意匠がかわり、その時期ならではのモチーフをいただくことができます。その中でも個人的に特に気に入っているのが、初夏に登場する「蛍」です。
神秘的な光をまとった蛍をイメージした薄氷は、抽象的でありながらも洗練された意匠で、ほのかな明かりが暗闇に飛び交う情景が目に浮かぶようです。また、口に含むとゆっくりとけてなくなる和三盆は、まさに薄い氷がとけるように、ほんのりと上品な甘みを残して消えていきます。初夏の夜、儚くも美しい蛍の姿に想いを馳せながら、ぜひ味わっていただきたい逸品です。
伝統的な日本の美意識を進化させ、現代の暮らしに合わせたモダンな菓子づくりをするHIGASHIYA(ヒガシヤ)。店舗からパッケージデザインに至るまで、細部まで研ぎ澄まされ、洗練された佇まいは、和菓子界に置いて唯一無二の存在です。
そんなHIGASHIYAが手がける初夏の季節菓子が、新茶を使用した「新茶羹(しんちゃかん)」です。透明感のある寒天の中に、濃厚で豊かな旨味をもつ鹿児島県産「ゆたかみどり」の茶葉が浮かぶ錦玉羹(きんぎょくかん)は、新緑の季節をそのまま映しとったような涼やかな見た目。上品な甘さの中に新茶の風味が感じられ、清々しい味わいです。日持ちもするので、さりげないおもたせや大切な方への贈り物にもおすすめです。
蓮の根から取れるでんぷんを使った銘菓「西湖(せいこ)」で有名な「紫野和久傳」ですが、今回紹介するのはその姉妹品ともいえる「希水」です。
夏の間だけ販売される「希水」は、林檎とともに圧搾し取り出した貴重な水とオオバコから作られた、つるんとした口当たりの涼菓。「西湖」同様、一つひとつ丁寧に笹の葉で包まれており、笹の葉をほどいてみると、ぷるんとしたわらび餅のような透明感のある生菓子が出てきます。
とても上品な甘さでスルスルとのどを通り抜け、気づいたときにはなくなってしまっているほどあっさりとした味わいで食べやすい。そして何より「美味しい」の一言に尽きます。こればっかりは食べてみないと体験できない感動なので、ぜひともこの夏、手にとっていただきたい一押しの品です。
梅雨があければ夏はすぐそこ。うだるような暑さを乗り切るためにも、目にも涼やかな和菓子で束の間の涼を楽しんでみてはいかがでしょうか。今回ピックアップした商品はどれもオンラインで購入できるものばかりなので、気になるものがあったら、ぜひお取り寄せしてみてください。
藤原夕貴
普段はグラフィックデザイナーとして広告・ブランディング業界で働く一方、茶道を教える祖母の影響で幼い頃から身近にあった「和菓子」に着目。うつろいゆく四季の情景や美しい日本語などから着想を得て、心を動かされた瞬間を和菓子を通して表現し、Instagramを中心に発信。著書に『和菓子と言の葉 デザイナーが紡ぐ四季の物語』(光文社)。
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