若者たちの等⾝⼤の⻘春&恋愛模様を⾒つめる前半から⼀転、後半はある事実が明かされ、驚きの展開を⾒せていく映画『明け⽅の若者たち』。実写『ホリミヤ』(21)など活躍の幅を広げる松本花奈監督が、「こんなハズじゃなかった」と理想と現実の狭間でもがき続ける20 代の“沼のような5 年間”を、リアリスティックにスクリーンに焼き付けました。
■本作は監督自身が映画化を強く希望されたとお伺いしております。原作を読まれて、特に強く惹かれたところを教えてください。
私は明大前の高校に通っていたのですが、”僕”と”彼女”の思い出の場所となっている「くじら公園」が通学路でした。放課後によく部活の自主練をしたり、友達と遊んだりしていたので、まさかそこが舞台になっているとは…!と驚きました。他にも、下北沢のヴィレッジヴァンガードやキリンジの「エイリアンズ」など親しみのあるワードが沢山出てきたことで、自分ごととして感じられたのが魅力的でした。
それから、”僕”への共感です。小説の中に出てくる言葉はどれも繊細で、生々しい熱を持っていて。”僕”の心情がビシビシ突き刺さってくるんです。将来への不安と期待が入り混じっている感じとか、自分が凡人だってことに気付いていないフリをしてる感じとか、本当は負けず嫌いだってことを隠してる感じとか、分かるなあって。こんなにも主人公に共感できる小説と出会えたことが純粋に嬉しくて、映画にしたいと思いました。
■本作を撮影されるにあたって特にこだわったところ・難しかったシーンについて教えてください。
“彼女”の人物像には、特にこだわりました。原作では”僕”の視点から見た”彼女”しか描かれていないので、”僕”フィルターのかかっていない”彼女”ってどんな感じなんだろう?とあれこれ考えて。でも、そもそも”僕”が”彼女”を好きになった理由ってきっと、ただ可愛いからとか、居心地が良いから、とかだけではないんだろうと思ったんです。”彼女”の生き方への尊敬があるから、ずっと一緒にいたいと願ったはずで。周りに流されることなく、物事の判断基準がちゃんと自分にある人、として描こうと考えました。
後はやはり、明け方のシーンにはこだわりました。明け方って、本当に刻一刻と陽が変わっていくんですよ。まだ暗いかなー、なんてボーッとしていると数分後にはもうすっかり太陽が昇ってきていて。だから実際に撮影できる時間は、30分もない位でした。高円寺での”僕”、”彼女”、尚人の3人のシーンでは、深夜から集まってリハーサルを行い、どのカットから撮っていくかの順番や立ち位置などを綿密に決めていきました。無事にやりきれた時の達成感は凄かったです。
■本作には「沼のような5年間」という表現が使われていますが、監督にとっての沼体験を教えてください!
私にとっての沼体験は…高校生の頃、生物の先生を好きになったことです。沼のような3年間、でしょうか。当時26歳の垂れ目で、猫背で、優しい口調で話す先生は、学年問わず生徒から人気でした。「マジで先生と結婚したい!」なんて言ってる友達もいたし、何より皆、自分も含めてでしたが、生物のテストの点数がメキメキと上がっていって(笑)それで高1のバレンタインの日、部活の友達らとチョコを渡しにいったんです。猫型のブラックチョコに、メモを添えて。確かメモには「先生は猫、好きですか?良かったらいつかうちの家にいる猫に会いに来てください」みたいなことを書いた気がしています。会いに来てくださいってどういうことだよ、猫をだしに使うなと言ってやりたいですが。でも先生は、いつもの優しい口調で「ありがとう。嬉しいけど、ごめん! 彼女いるから、受け取れないわ」とハッキリ言いました。受け取ってくれることは前提で、誰のが一番美味しかったって言ってくれるかなー、なんて話していたので、皆軽くショックを受けていたと思います。先生ひどー、と愚痴を言い合いながらその後、駅前のマクドナルドでやけ食いをしたわけですが、私はその先生の言葉と、視線が忘れられなくて。それまでは正直、ノリで「うちも先生好き!」と言ってましたが、それ以降、本気で好きになってしまったんですよね。クソ真面目で、一途な先生、最高。結局翌年になって、先生は別の学校への転勤が決まり、会うこともなくなってしまったわけですが、その思い出がずっと私の心にこびりついて離れなくて。1日5回くらいは先生のこと、思い出していて…。高校卒業する頃まではそんな沼にハマっていました。
■いよいよ来週公開となりますが、松本監督から本作をご鑑賞される方にメッセージをお願い致します!
この映画では”僕”の21歳から26歳までの5年間を描いていて、その中には沢山の幸せな思い出の日々があります。どれだけ退屈な日常でも、その思い出さえあれば生きていけるような、そんな宝物のような日々が、瞬間が、あなたにもきっとあるのではないかと思います。普段は心の中に閉まっているであろう思い出を、フッと思い出すきっかけになってもらえたら嬉しいです。