ソメヤスズキが服づくりをしているのは岡山県西粟倉村。人口1500人ほどの小さな村です。その村は土地の95%以上が森林で、そのほとんどがスギとヒノキ。いま日本中で、価値の下がった森林が放置され、問題視されています。
西粟倉の森林は「百年の森林」と呼ばれています。それは、けして財政が豊かではないこの村の将来は、森林資源をどのように活用するかにかかっているため、百年後にもこの森林が繁栄しているように名付けられました。
そんな村の片隅で暮らしながらソメヤスズキを営む染織家の鈴木菜々子さんは身の回りにある草木で染色をはじめます。ここの豊かな自然が溶け出した美しい色を布に落とし込む世界に魅せられていきます。
身の回りの素敵なもので、美しく、心地よいものをつくりたいーーー。その思いは、地域資源を動かします。
現在、国産材は高く売れず、山の価値が下がり続けています。山は放置され、災害を引き起こすなど社会問題になっています。そこでソメヤスズキでは間伐材を利用した染め物に挑戦。
ヒノキの色から着想を得て、ピンクを染める技術を開発。試行錯誤の末、美しい発色に。
自らが暮らす村の問題からこんなにも美しい色が生まれた。
こうして村の「お荷物」だった間伐材は、スモークピンクという色に生まれ変わります。
地域資源をクリエイティブに活かすソメヤスズキですが、出したい色があれば西粟倉の草木以外の材料を使って染色をします。こだわりは「地場」ではなく「出したい色」。
それはクリエイターとしてレベルの高いものづくりをする矜持があるから。真摯に「いい色を出したい」と手を伸ばし、結果的にエシカルでサスティナブルなものが多くなったといいます。
「着心地が良いものとかっこいいものを地続きにしたい」「男性でも女性でも着たいと思えるものを」と菜々子さんはいいます。ハレとケ、日常と非日常、男と女、ファストとオートクチュール、エコと消費。ファッションを隔てるものを軽々と飛び越えていく服。そんな服は自然と向き合わなければならない村でのものづくり「ここだから生まれたもの」です。