Chapter1 3月 ギターを買った。寄せ集めのバンド「ぐれにゃん」誕生秘話
▶筆者:のぐにゃん
「ミチシルベ」に携わるパルコ社員。名古屋パルコ勤務時に思い付きで、ロックバンド「ザ・グレートニャンニャンズ」を結成。バンドは現在無期限休止中。
名古屋に転勤して4年。仕事にも、毎日の生活にも、正直すこし飽きがきていた。
バンド活動がしたい! と、ふと思い立った。
相撲観戦やカクテルづくりなど、これまで思いついたことはとりあえずやってみるのが主義だ。
まず最初に、名古屋パルコのライブハウス「クラブクアトロ」のブッキング担当の田口さんに相談してみた。ご自身でもバンド活動をしていると聞いたことがあり、感じが良くて相談しやすいお兄さんだ。ついでに一緒にバンドやってくれませんかとも聞いてみた。
「いいよ!」と即答。やったー! これでバンドメンバーは2人。
パートはどうする? と田口さん。「やっぱギターですね」と自分。ヴォーカルは目立ち過ぎて嫌だけど、フロントでメロディーを奏でるギターに憧れる。
田口さんの行きつけの小さな楽器店に連れて行ってもらい、ギターを買った。
地下のスタジオでおすすめのギターをいくつか試し弾きさせてもらって、ダンエレクトロというメーカーのエレキギターは3万円とすこしで手に入った。
ピンクとベージュのグラデーションの奇抜なデザインが自分らしいかもと、とても気に入った。
そして私は、島村楽器のマンツーマンレッスンを申し込み、練習を開始した。
「そういえば、弥助がドラム始めたって言ってたよ。」弥助さんは同じ職場で働いている謎めいていて、マニアックな雰囲気のお兄さんだ。ヴォーカルは後輩の底抜けに陽気でバンドを楽しくしてくれそうなカミちゃんに無理やり声をかけた。ふたりともバンドに入ってくれることになった。
仕事でお付き合いのあるデザイナー中華さんに「バンド組んだんですよ」と何気なく話すと「自分もやりたい。ギターが弾けるからベースできます。」とグループ活動に興味がなさそうな中華さんが珍しく食いついてきた。中華さんはとてもおしゃれで国籍不明な感じのおじさんだ。
男女、年齢バラバラの、なんだか不思議なバンドが出来上がった。名前は、みんなで相談して「ザ・グレートニャンニャンズ」(以下、ぐれにゃんと呼びます)に決めた。猫のかわいいイメージに加え、ちょっと不純な雰囲気もあるからだ(ある程度の年齢の方はわかるはず)。
Chapter2 4月 「スタジオむ~ん」で毎週練習。終わった後は打ちあげ。
バンドを組んで最初にどんな曲を練習すべきか。
かっこいいロックの洋楽にしよう。「コード進行が単純でノリの良いラモーンズがいいんじゃない?」と田口さん。最初の曲はラモーンズを日本語でカバーするロマーンズの「電撃バップ」に決定。田口さんからコードの走り書きをもらい、練習を開始した。ギターは、アンプにつながらなければあまり音が出ないので、部屋でも練習ができる。
全員での練習は、週に1回、会社終わりに2時間ほど合奏し、終ったあとは飲み屋で反省会をすることにした。
みんなで練習する「スタジオむ~ん」は、古いビルの地下のスナック居ぬき、って雰囲気の場末感あふれる安く借りられるスタジオだ。変なおっちゃんが一人でやっている。
素人の自分、カラオケと違って音程がなかなかとれないヴォーカルのカミちゃん、虚弱体質でパワーの弱いドラムの弥助さん……。当然ひどいもので、「スタジオむ~ん」に他の客がいないのだけが救いだ。でも、一人でコツコツ練習するよりも、「ぜんぜん合わねー!」って笑いながら、皆で一緒に演奏するのが何より楽しくて、熱中していった。
ぐれにゃんのメンバーは、練習以外にも大相撲や「志村魂」を見に行ったり田口さんのライブに行ったりして、とても仲良くなった。
Chapter3 6月 ライブを目標に、徐々にボルテージが上がるメンバーたち。
3月に活動を始めたぐれにゃんだが、そろそろ6月になり、バラバラだった音は、ちゃんと「音楽」になってきた。メンバー恒例の練習打ち上げで、8月にライブをやることに決めた。
「ライブやるとなると、曲が足りないな。最低4~5曲は必要だね。」と田口さん。マイケル・ジャクソンが好きなカミちゃんは「BEAT IT」がやりたいという。すぐに練習を始めたが、とても歯が立たなくてすぐあきらめた。
メンバーで飲みながら、「好き」「自分らにもなんとかやれる」「かっこいい曲」を相談し、ラモーンズのほか、Tレックス、シーナ&ザロケッツ、CCR、ヴァネッサ・パラディなどから5曲を決め、練習を開始した。田口さんの提案で、田口さんと自分はカミちゃんのバックコーラスをやることになった。
ギターを弾きながら歌うって、大丈夫⁉ と思ったが、ギターが旋律を担当する関係で、案外なんとか出来た。うまくはないけど。
田口さんの伝手で、今池のライブハウス「CLUB UPSET」で4つのバンドが登場するライブに8月出演することが決まり、私たちは週1回だった練習を週2回に増やし、より設備が揃った新しいスタジオで練習することになった。このスタジオでは録音とCDの焼き増しが簡単にできる為、練習のレベルもアップし、私たちはどんどん上手になっていった。
(ぐれにゃん初期の思い出がつまったスタジオむ~んはその後つぶれたみたいで、おっちゃんに悪いことしました。あのおっちゃんは今どこで何をしているのでしょうか。お元気でいて欲しい……。)
島村楽器のマンツーマンレッスンでは、演奏する曲を先生に伝えて、ライブに効果的な弾き方や演奏などを教えてもらうことにした。
Chapter4 7月 方向性の違いでケンカが起きる。あわやバンド解散の危機!
「ミュージックビデオを作ろう」
ある練習後の打ち上げ。映像の仕事をしている、カミちゃんのカレシの提案で、カメラ3台持ち込んで撮影したものをミュージックビデオ風に仕上げてくれる話が進んでいた。「なんかプロのミュージシャンみたいじゃん」と私たちがワイワイと浮かれていたところ、なにやら不満げな弥助さんと突然口論となった。「のぐにゃんは、本当は何がしたいんだ? まだバンドの音が固まってないのに、そーいうのは、違うんじゃないのか!!」
ムカっとした私は「それもバンド活動の一部でしょ!? じゃーやめますか! やめてもいいんすよ!」「じゃーやめますよ」とお酒が入っていた我々はお互い激しい言い合いになり、他のメンバーのとりなしで、とりあえずその日は解散した。
一晩おいて冷静になった弥助さんと自分は、出社するなりお互い謝り合って、仲直りした。その後弥助さんの前では、ビデオの話はしないことにしたが、なんだかこのケンカによりバンドの一体感が増したような気がした。
Chapter5 バンドグッズDIY
私たちのバンドの最大のメリット。それはメンバーに本職のデザイナーがいることだ。中華さんは反骨精神を表現した、猫のガイコツのキャラとロゴを作ってくれた。グレニャンのイメージにぴったりだ。
ライブには、おそろいのTシャツを着よう!ということで、各自用意したTシャツにグレニャンキャラを中華さんお手製のテンプレートに布用スプレーを吹き付け手作りした。
販売できるグッズを作ろうと、バンド定番のグッズ、バッジとステッカーを作った。
缶バッジが手作りできるバンダイの「カンバッジグー」で、中華さんがバッジを大量生産。文房具屋で買ってきたステッカーシートに、かわいい猫の写真のデザインをプリントし、はさみでチョキチョキしてステッカーも作った。ライブ当日、この手作りバンドグッズが結構売れて、打ち上げの足しになった。
Chapter6 8月 転勤が決まった。そしてライブの日がやってきた。
ライブの2週間前。自分に異動の内示が出た。札幌への転勤だった。メンバーに動揺が走った。
「本番は転勤前だし! バンドの総仕上げとしてとにかくライブがんばろう!」と皆ますます練習に熱を入れた。そして、チケットを取引先や同僚や知り合いなどに売って歩いた。島村楽器の先生も買ってくれた。
ライブ当日。4つあるバンドの中、実績のない私たち「ぐれにゃん」は、最初の出番。しかし、チケットを取引先へ半ば強引に売りさばいたこともあり、4つのバンド中一番の集客で、会場はほぼ満員になった。
自分は美容院に行き、「グウェン・ステファニーみたくしてください!」とオーダーし、つけまつげバッチリでコテコテのヘアメイクをしてもらった。この日の為にダイエットをがんばり、パツパツのスキニーパンツに、ぐれにゃんTでロッカー風ファッションに仕上げた。

練習はがんばったが、ギターの腕前はいまひとつ。せめて別人に変身した姿を楽しんでもらおうと思ったのだ。
出番はあっという間に終わり、打ち上げとなった。まあ、ミスもあったし、音も外したけど、来てくれた人は喜んでくれたし、打ち上げも大いに盛り上がった。なにより自分たちがとても楽しかった。
Chapter7 転勤その後
転勤して数年後、浅草の屋形船で行われたカミちゃんの結婚披露宴(映像関係のカレシとめでたく結婚)では、カミちゃん以外の4人でカラオケで必死に練習してダイアナ・ロス&ライオネル・リッチーの「Endless Love」をうたった。
ぐれにゃん最後のライブから10年以上が経過した。その後5人中3人が転勤してその地を離れ、ぐれにゃんとしてバンド活動は出来ていないが、相撲や旅行など親しい付き合いは続いている。

気の合う仲間たちと同じ曲に向き合い、試行錯誤しながら合奏し、その後一緒にお酒を酌み交わし語り合うまでの一連の活動こそがバンド活動の醍醐味。
仲間探しに、曲選び、楽器の練習、スタジオ練習、、、バンド活動のプロセスは多岐に渡る。面倒なものだが、まさにこの面倒なプロセスこそが、楽しかったりする。
ミチシルベについて
ミチシルベは、株式会社パルコが運営する、何かを始めたい人の「初めの一歩」を応援するトライアルプロジェクトです。
「自分もバンドやってみたいかも……!」と少しでも思って頂いた方へ。
ミチシルベのWebサイトでは、先人の活動を記録した記事や、気の合う仲間さがしや気軽に相談ができる掲示板をご用意し、何かを始めてみたい方のサポートを行っていきます。
よろしければこちらを覗いてみてください。