書店員&詩人・花本武(社長)と、作家・山崎ナオコーラ(副社長)の二名で構成された、稀有な組み合わせの夫婦ユニット「ソーダ書房」による初連載。社長による「詩とエッセイ」、副社長の「解説」で交互に綴る、書店や作家業、育児のことetc.
2019/01/28 Mon.
「友情もあるねぇ。〜書店員と作家とこどもとみんなたち〜」 連載第6回 山崎ナオコーラ(ソーダ書房)
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2019/01/28 Mon.
「友情もあるねぇ。〜書店員と作家とこどもとみんなたち〜」 連載第6回 山崎ナオコーラ(ソーダ書房)
書店員&詩人・花本武(社長)と、作家・山崎ナオコーラ(副社長)の二名で構成された、稀有な組み合わせの夫婦ユニット「ソーダ書房」による初連載。社長による「詩とエッセイ」、副社長の「解説」で交互に綴る、書店や作家業、育児のことetc.
社長の文中に、「ビックリマンのシールを集めている」とあったが、今の若い方は「ビックリマン」と聞いてピンと来るのだろうか?
「ビックリマン」というのは小さなチョコレート菓子で、シールのオマケが付いている。80年代に大ブームが起こり、たくさんの小学生がこのシールを集め、ファイリングしていた。私や社長の子ども時代だ(社長は私の一歳上だ)。私は興味がなくて集めていなかったが、社長は集めていたようだ。そのあとブームは下火になったが、まだ販売が続いているらしい。そして社長はそのシールを今も集め続けている。多くの収集家はシールを剥がさずにクリアポケットのファイルにコレクションしているが、社長はノートに貼り付けている。「シールなのだから、貼るべきだ」と社長は主張している。分厚くなった大学ノートが家にいっぱいある。
そんなくだらない話はどうでもいい。
今回は絵本だ。
ヨシタケシンスケさんは、今や知らない人などいない大人気の絵本作家だが、確かに社長は、ブレークの数年前、かなり早い段階からヨシタケさんの本を推していた。まだ最初の絵本を出す前で、スケッチ集などのシュールな本を出版なさっていた頃だ。社長は、書店へ出勤する前に、数十冊の本を抱え、往復三時間かけてヨシタケさんの事務所へ行ってサイン本を作ってもらい、持って帰ったサイン本を書店に並べていた(当時、私はまだ結婚前だった。社長から聞いて、初めてヨシタケさんのお名前を知った)。
その後、大傑作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)を発表し、ヨシタケさんは一躍、絵本界のスターとなった。
『りんごかもしれない』は、それまでの絵本の常識には合わない本だった。ヨシタケさんは、芸術家でありながら職人っぽくもある不思議な人で、その型にはまらない魅力が最大限に活かされたのがこの本だと思う。
もずくもこの本をときどき取り出してくる。2歳のもずくにはまだちゃんとした理解は難しく思われる絵本だが、「りんごをいろんな風に見る」という大筋は捉えられている雰囲気がある。「りんごのかみのけ」「りんごの宇宙人」「このおうち住みたいの」などと言いながら、わかるイラストを指差し、自分なりに楽しんでいる。そして最後に「あむあむ」と食べる。
絵本には対象年齢というものがあり、確かに「2歳向け」と表記がある本はもずくの受けが良い。理解できる感じ、興味のある事柄が載っている感じ、ちょうど良いハードルがある感じが良いのだろう。
でも、うちには0歳児向けの絵本も、小学生向けの絵本もある。本人としては、自分に合っているものがどれかわからないので、なんでも本棚から取り出す。それどころか、絵本と雑誌の区別もつかないので、大人向けの料理雑誌やチラシなども、「読んで」と持ってくることがある。
だから、私はもずくに合わせて適当に読む。簡単すぎる本だったら、「蝶々がいるね。どこにいる?」だとか、「赤い帽子の子、いる?」だとか、探し物クイズを途中でちょっと挟んでみたり、「このあと、どうなると思う?」「この子、なんて言っていると思う?」と絵を指差して一緒に想像してみたりする。
逆に、文字がいっぱいで難しい本は、端折って読む。また、もずくの知らない言葉があったら、そのまま読んでも雰囲気で伝わることもあるからそのままでもいいとは思うのだが、知らない言葉が続いてわかりにくそうだったり飽きてしまいそうだったりもするので、知っている言葉に言い換えてどんどんアレンジしてしまう。
私が思うに、世の多くの読者は作者に敬意を持ち過ぎている。「アレンジなんてとんでもない」という方も多いと思うが、私は一応実作者なので、書き手の気持ちをまあまあ想像できる。それで、アレンジしてもいいのではないかな、と考えている。
本は読者のものだ。決して、作者のものではない。文字なんて、きっかけに過ぎない。本当の本は、読者の頭の中にある。「良いきっかけ作りができたなら、作者として成功」と私は思う。だから、文字をきっかけにして、その人なりの考え事ができれば、たとえ作者の意図から外れたとしても、十分に素敵な読書なのだ。
雑誌でもチラシでも、子どもと一緒に読んでいると、素敵な読書体験を味わえる。「こういう読み方もあったのか!」と新しい読書法を子どもから教わることもある。子どもは平気で1ページ飛ばしたり、前のページに戻ったりもする。「1ページずつ飛ばさずに前に進む」なんてルールはゴミ箱に捨てて、自由に読んだ方が本を自分のものにできる。
加藤休ミさんのお名前も、私は夫を通して知った。原画展を見にいったこともある。『きょうのごはん』(偕成社)はコロッケやカレーなどのおいしそうな絵も素晴らしいし、構成も完璧だ。もずくは1歳の頃からこの本が大好きで、食べる真似をしていた。
また、『おさかないちば』(講談社)は、市場を見学する話で、魚から血が噴き出すシーンなど、生々しいシーンもある。もずくは普通に受け止めている。
加藤さんの絵本だけでなく、「え? こんな生々しいのを小さい子に見せていいの?」と大人が戸惑ってしまうような絵本は、意外と世間に多い。食材の調達の仕方を描いた絵本、食物連鎖をイラストにしている絵本、死を描く絵本……。2歳のもずくは、「あ、カエルさんがバッタさんを食べちゃった」などと言って、そういう描写でも特に驚かず、落ち着いて受け止めている。もちろん過激過ぎるものをあえて見せる必要などないが、「小さい子はきれいなものしか受け止められない」というのは実は思い込みで、子どもの心は大人が思うよりもずっと深く、度量があるのかもしれない。
くりはらたかしさんは私も大好きだ。『ぱたぱた するする がしーん』は「こどものとも年中向き」の2018年8月号だった。人気のある号は、後日に絵本化されることもあるみたいなので、ぜひ絵本化してもらいたい。
福音館書店のこどものとものシーリーズは、「こどものとも0.1.2」「こどものとも年少版」「こどものとも年中向き」「こどものとも」「ちいさなかがくのとも」「かがくのとも」の6種類が毎月出版されていて、私たちは最初、「こどものとも0.1.2」だけ買っていた。だが、2歳になってからは、他の年齢向けの本でもそれなりに楽しめることがわかってきたので、面白そうなのを毎月数冊購入している。全部買うときもある。
社長が書店で働いていたり、私が作家をしていたり、テレビがなくて他に娯楽がなかったりするので、私の家にはどんどん本が増えていく。
壁が本棚で埋まり、床に絵本が散らばる。
図書館にも通っているが、ついつい書店で散財してしまう。「節約中なのに、いいのかな」と反省する。
でも、絵本だったら、旅行に行くよりは安く遠くへ行ける。買ったことを本気で後悔した絵本は今のところ一冊もない。
<プロフィール>
●ソーダ書房(そーだしょぼう)
書店員、花本 武(社長)と作家、山崎ナオコーラ(副社長)以上二名で構成する組織。本にまつわる諸々の活動を行う予定です。
●花本 武(はなもと たけし)
1977年東京生まれ。都内某書店勤務のかたわら詩作やそれを朗読する活動をたまに行う。一児の父。
●山崎ナオコーラ(やまざき なおこーら)
作家。1978年生まれ。性別非公表。2歳児と夫と東京の片隅で暮らす。著書に、小説『美しい距離』『偽姉妹』、エッセイ『母ではなくて、親になる』など。目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
挿画:ちえちひろ